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過保護の先にあるもの
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1.[名無しさん] 【ショートショート】 過保護の先にあるもの 市井たくりゅう 2026年3月2日 06:01 ・ 「あなたは間違っていない」 母は、いつもそう言った。 幼稚園でおもちゃを取り合って泣かせたときも。 「だって先に使ってたんでしょ? 悪くないよ」 小学校で友達とケンカしたときも。 「相手が意地悪だったのよ。あなたは正しい」 先生に注意された日も。 「先生の言い方が悪いの。あなたは悪くない」 世界は、少し理不尽だった。 でも母の前では、必ず整えられた。 ぼくは、正解だった。 中学、高校。 うまくいかないことがあっても、母に話せば必ず答えは同じだった。 「あなたは悪くない」 だから考えなくてよかった。 相手がどう思ったか。 なぜ怒ったのか。 どこで傷つけたのか。 そんなことを考える必要はなかった。 だって、ぼくは間違っていないのだから。 社会人になった。 会議で企画を否定された。 「それは違うだろ」 上司が言う。 胸が熱くなる。 “違わない。俺は正しい” そう思った瞬間、言葉が強くなった。 空気が凍った。 後日、呼び出された。 「君は、自分の意見は言う。でも、人の話を聞いていない」 理解できなかった。 だって、間違っていないのに。 恋人ができた。 些細なことで泣かれた。 「そういう言い方、傷つく」 意味がわからない。 事実を言っただけだ。 「でも本当のことだよ?」 彼女は静かに言った。 「正しいかどうかじゃなくて、悲しかったの」 その言葉は、どこにも収納できなかった。 正しいのに、悲しい? そんな項目、習っていない。 やがて彼女はいなくなった。 上司からの評価も下がった。 帰省した夜、母に言った。 「なんか、みんな俺を誤解する」 母はすぐに答えた。 「あなたは悪くないよ」 その瞬間、胸の奥で何かがひび割れた。 もしかしたら。 ずっと守られていたのは、 ぼくの正しさじゃなくて、 母の安心だったのかもしれない。 翌日、会社で後輩にきつく当たってしまった。 後輩はうつむき、小さく言った。 「すみません」 もしかして、言い方がキツかったか? ふと、迷う。 “あなたは間違っていない” 母の言葉が頭の中で浮かぶ。 でも初めて、別の疑問が浮かび上がった。 “この人は、今どう感じている?” 答えはわからない。 わからないまま立ち尽くす。 いつも正しかった正解の子は、 初めて間違いの可能性に触れた。 それは敗北ではなく、 ようやく世界に参加する入り口だった。 完 07/18 08:28 PC Android
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